東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)59号 判決
一 請求原因一、二の事実、すなわち、本願意匠の登録出願から本件審決の成立に至る特許庁における手続の経緯及び本件審決の理由については、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告が請求原因三において主張する本件審決の取消事由の存否につき判断する。
1 本願意匠と引用意匠の各構成及びその間の共通点、相違点が本件審決の認定するとおりであることは、当事者間に争いがない。
なお、両意匠のそれぞれ意匠に係る物品とされている「水筒」がいずれも魔法瓶を使用した保温用水筒であることは、成立に争いのない乙第三〇号証及び弁論の全趣旨から明らかである(別紙(一)及び(二)参照)。
2 原告は、両意匠に共通する基本形状及び蓋体の構成は従来周知の形状であるから意匠の要部でないと主張する。
なるほど、一般に保温用水筒の意匠において、上すぼみの円筒形を基本形状とし、全体を上辺で二分して上を蓋体、下を本体とし、下辺に細幅の底部を設け、蓋体をわずかに上すぼみの逆円錐台形とした構成は、従来周知の形態であることは、当裁判所に顕著なところであるが、本件の正面と背面との中央上辺から下辺ほぼいつぱいに、本体の中央部直径の約四分の一の幅のスリツトを両側から対称に滑らかに前面に突出させ、スリツトの断面形状を平滑な凹状にし、かつ、スリツトの上端両外角をわずかに斜めの面取りにし肩部とした構成は、保温用水筒の意匠において、周知の形状であるとか、保温用水筒の用途、機能から必然的に形成される形態であると認むべき証拠がないから、周知の上記形態に右のようなスリツトを形成した構成は、全体としてやはり看者の注意を強く惹くところであるといわざるをえない。
3 本願意匠においては、本体正面側のスリツトの中央に、スリツトの長さの約四割の長さでほぼスリツトいつぱいの、縦細長の長方形状の透視窓が設けられているのに対し、引用意匠には透視窓が設けられていない(スリツトの大きさの点を除き、当事者間に争いがない。)。
ところで、成立に争いのない乙第一号証ないし第一七号証、第一八号証の一ないし五、第一九号証の一ないし五、第二〇号証の一ないし三、第二一号証ないし第二三号証によれば、本願意匠の登録出願当時、すでに、アイロン、電気湯沸し器、石油ストーブ、米びつ、ミルク釜等において内容物の量を外部から知るための長方形あるいは円形の透視窓や計量計が設けられたもの、並びに、ガスストーブ、風呂釜、ガス炊飯器、乾燥機、エアーコンデイシヨナー、パネルヒーター等において機器の内部の状況を外部から見るための長方形あるいは円形のいわゆるのぞき窓が設けられたものが多数存在し、周知であつたことが認められる。また、成立に争いのない乙第二四号証ないし第二七号証、第二九号証によれば、魔法瓶においてほぼ長方形あるいは円形の透視窓を本体の側面に設けて内容物の量を外部から知りうるようにしたものに関する考案及び発明が、本願意匠の登録出願前に、少なくとも五件は出願され、それぞれ実施例を示した図面とともに特許公報等により公告、公開され、公知であつたことが認められる。以上の認定事実に照らすと、本願意匠の属する分野における通常の知識を有するものにとつて、魔法瓶を使用する保温用水筒の本体側面に長方形の透視窓を設けるということに想到するのが、困難であるとすることはできないであろう。
しかしながら、本願意匠において、前示の本体正面側スリツトの中央に設けられた縦細長の長方形状の透視窓は、別紙(一)のとおり、スリツトの凹状面とは明確に区画された枠縁を有し、枠縁内に透明板を嵌着したものであるから、本件審決が認定するようにスリツト間の平滑な凹状面に吸収されてしまう程度のものとはいえず、透視窓の位置、大きさ及びその目的、機能並びに保温用水筒の一般的な存在態様に照らすと、看者の目にまず触れる部分にあり、その注意を強く惹くところであつて、本願意匠における目立つた特徴となつているものといわざるをえない。すなわち、本願意匠において透視窓は、意匠の要部といつて差支えがなく、この点に関する引用意匠との差異をもつて単なる部分的な差異にすぎないとすることはできない。
以上のとおり、本願意匠は、魔法瓶に関する他の公知例によれば、保温用水筒の本体側面に長方形の透視窓を設けるという一般的着想そのものが困難であつたとはいえないにしても、本体正面側のスリツトの中央に透視窓を前示のとおりの一定の構成として設けることにより、引用意匠のもつ創作の範囲を超えた別異の美感を与えるもの、すなわち、引用意匠とは類似しない意匠というべきものである。したがつて、本願意匠が引用意匠と類似するとして、意匠法第三条第一項第三号に規定されている登録を受けることができない意匠に該当するとした本件審決の判断は誤りである。
三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容する。
〔編註〕 本件に関する意匠は左のとおりである。
別紙(一)本願意匠
<省略>